2024年3月9日發(作者:神秘谷)
走れメロス(快跑! 梅洛斯)
太宰治
メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の王を除かなければ
ならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、
羊と遊んで暮して來た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。
梅洛斯勃然大怒。決心一定要除掉那個陰險狡詐,暴虐成性的國王。梅洛斯雖然不懂
政治。他是一介村夫。吹著笛子,靠著放羊來過活。但是對于邪惡,他要比常人敏感一倍。
きょう未明メロスは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此(こ)のシラク
スの市にやって來た。メロスには父も、母も無い。女房も無い。十六の、內気な妹と二
人暮しだ。この妹は、村の或る律気な一牧人を、近々、花婿(はなむこ)として迎える
事になっていた。結婚式も間近かなのである。メロスは、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝
宴の御馳走やらを買いに、はるばる市にやって來たのだ。
今天凌晨,梅洛斯從村子出發,翻山越嶺,來到了距離十里之外的希拉庫斯市。梅洛
斯沒有父母與妻室。和十六歲的內向的妹妹在一起生活。梅洛斯的妹妹和村里的一個誠實
耿直的牧人將會在不久之后舉行婚禮。因此梅洛斯為了給妹妹準備新娘的禮服與慶宴的酒
席而來到了遙遠的城市。
先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。メロスには竹馬
の友があった。セリヌンティウスである。今は此のシラクスの市で、石工をしている。
その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行
くのが楽しみである。
買了各式各樣的禮物之后在市中心閑庭信步。梅洛斯正打算去拜訪塞里努迪斯,這是
一個在希拉庫斯市做著石匠的摯友。因為很久沒碰頭了,所以梅洛斯非常的高興。
歩いているうちにメロスは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。もう
既に日も落ちて、まちの暗いのは當りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかり
では無く、市全體が、やけに寂しい。のんきなメロスも、だんだん不安になって來た。
梅洛斯一邊走著,感到街上的樣子怪怪的。死寂般的沉靜。雖然已經是日落了,街上
的灰暗也是理所當然的,但總覺得并不是黑夜的緣故,而是整個城市都沉寂萬分。一向冷
靜的梅洛斯也漸漸不安起來了。
路で逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に來たときは、
夜でも皆が歌をうたって、まちは賑やかであった筈(はず)だが、と質問した。若い衆
は、首を振って答えなかった。しばらく歩いて老爺(ろうや)に逢い、こんどはもっと、
語勢を強くして質問した。老爺は答えなかった。メロスは両手で老爺のからだをゆすぶ
って質問を重ねた。
梅洛斯在路上遇到了一個年輕人,便詢問道“兩年前我來到這里的時候,即便在晚上
大家都唱著歌,熱熱鬧鬧的,這到底是發生了什么?”年輕人搖搖頭不作聲。不久又遇到
了一位老人,這一次梅洛斯更加強烈得質問道,但老人還是不回答。梅洛斯兩手搖動著老
人的身體重復的質問。
老爺は、あたりをはばかる低聲で、わずか答えた。
「王様は、人を殺します。」
「なぜ殺すのだ。」
「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。」
「たくさんの人を殺したのか。」
「はい、はじめは王様の妹婿さまを。それから、御自身のお世嗣(よつぎ)を。そ
れから、妹さまを。それから、妹さまの御子さまを。それから、皇后さまを。それから、
賢臣のアレキス様を。」
「おどろいた。國王は亂心か。」
「いいえ、亂心ではございませぬ。人を、信ずる事が出來ぬ、というのです。この
ごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、人質ひと
りずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば十字架にかけられて、殺されま
す。きょうは、六人殺されました。」
聞いて、メロスは激怒した。「呆(あき)れた王だ。生かして置けぬ。」
老人顧忌到周圍,微微的說著:
“國王殺人了”
“為什么呀”
“國王心術不正,無論對誰都存有邪念”
“已經殺了很多人嗎?”
“恩,先是國王的妹夫,再是王子和皇妹,之后又殺了侄子、皇后、以及忠臣阿萊基
斯大人”
“太可怕了,國王瘋了嗎?”
“不是瘋了,而是不再信任別人了。這段時間對于家臣都是心存疑慮,有人過的少許
闊氣些了就要命令將其拘禁。如有抗令,則誅之。今天已經殺了六個人了。”
聽了之后梅洛斯暴怒:真是個愚蠢的國王,決不能讓其肆意妄為。
メロスは、単純な男であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ王城にはいっ
て行った。たちまち彼は、巡邏(じゅんら)の警吏に捕縛された。調べられて、メロス
の懐中からは短剣が出て來たので、騒ぎが大きくなってしまった。メロスは、王の前に
引き出された。
梅洛斯是個單純的男子。背著禮物,就踱步朝著皇城而去。轉眼間他就被巡邏的士兵
捆綁住。并由于從他的懷里搜出了一把短劍,而引起了軒然大波。梅洛斯被帶到了國王跟
前。
「この短刀で何をするつもりであったか。言え!」暴君ディオニスは靜かに、けれ
ども威厳を以(もっ)て問いつめた。その王の顔は蒼白(そうはく)で、眉間(みけん)
の皺(しわ)は、刻み込まれたように深かった。
「市を暴君の手から救うのだ。」とメロスは悪びれずに答えた。
「おまえがか?」王は、憫笑(びんしょう)した。「仕方の無いやつじゃ。おまえに
は、わしの孤獨がわからぬ。」
「言うな!」とメロスは、いきり立って反駁(はんばく)した。「人の心を疑うのは、
最も恥ずべき悪徳だ。王は、民の忠誠をさえ疑って居られる。」
「疑うのが、正當の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人
の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりさ。信じては、ならぬ。」暴
君は落著いて呟(つぶや)き、ほっと溜息(ためいき)をついた。「わしだって、平和を
望んでいるのだが。」
“這把短刀你準備用來做什么?快說!”暴君迪奧尼斯以沉靜帶有威嚴的口氣盤問道。
國王眉間的皺紋就象是被人刻上去那樣的深深印在了他那蒼白的臉龐上。
“要從暴君的手上拯救城市。”梅洛斯豪不畏懼的回答道。
“就憑你嗎”國王冷笑著說“真是無藥可救了,你根本就不懂本王的孤獨。”
“胡說”梅洛斯怒不可遏的反駁道“懷疑人們的真心那是最可恥的行為。國王居然會
懷疑人民的忠誠。”
“懷疑也是正常的思想準備。教本王這個道理的也是你們這些人啊。人的心是得不到
承諾的。人類本身就是擁有私欲的群體。是無法信任的”暴君小聲嘟囔著,又嘆了口氣“其
實我也是希望和平的。”
「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為か。」こんどはメロスが嘲笑した。「罪の
無い人を殺して、何が平和だ。」
「だまれ、下賤(げせん)の者。」王は、さっと顔を挙げて報いた。「口では、どん
な清らかな事でも言える。わしには、人の腹綿の奧底が見え透いてならぬ。おまえだっ
て、いまに、磔(はりつけ)になってから、泣いて詫(わ)びたって聞かぬぞ。」
「ああ、王は悧巧(りこう)だ。自惚(うぬぼ)れているがよい。私は、ちゃんと
死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」と言いかけて、メロスは
足もとに視線を落し瞬時ためらい、「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三
日間の日限を與えて下さい。たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたいのです。三日
のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って來ます。」
“和平?為了什么?難道是為了自己的地位嗎?”這一回梅洛斯嘲笑道“殺害無辜
者,算得上和平?”
“住口,賤民。”國王突然抬起頭大喝一聲“再美妙的東西,用嘴說說也容易吧。倒
是你馬上就要被我用長矛處死,可別哭著求饒啊。”
“哈,陛下還真是通曉人心啊,我已做好了赴死的準備,絕對不會企求活命的。只
是……”梅洛斯突然視線落到了腳邊,躊躇著說“只是……我只想請求陛下在處刑之前給我
3天的期限。我想給妹妹辦完婚禮,3天之內我一定會回來的。”
「ばかな。」と暴君は、嗄(しわが)れた聲で低く笑った。「とんでもない噓(うそ)
を言うわい。逃がした小鳥が帰って來るというのか。」
「そうです。帰って來るのです。」メロスは必死で言い張った。「私は約束を守りま
す。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を
信じられないならば、よろしい、この市にセリヌンティウスという石工がいます。私の
無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目
の日暮まで、ここに帰って來なかったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そう
して下さい。」
“真是荒唐啊。”暴君用嘶啞的聲音低聲笑著。“不要說這些不著邊際的謊話,逃出
去的小鳥難道還會飛回來嗎?”
“是的,會回來的。”梅洛斯固執己見的說道。“我會遵守約定。我只需要3天。妹
妹在等我回去。在這個城市里有一個叫塞里努迪斯的石匠,他是我唯一的朋友。如果你這
么不相信我的話,就把他作為人質。如果我逃走了,3天之內都沒有回來的話。就請將我
的朋友絞死。拜托了。”
それを聞いて王は、殘虐な気持で、そっと北叟笑(ほくそえ)んだ。生意気なこと
を言うわい。どうせ帰って來ないにきまっている。この噓つきに騙(だま)された振り
して、放してやるのも面白い。そうして身代りの男を、三日目に殺してやるのも気味が
いい。人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りの男を磔刑に
処してやるのだ。世の中の、正直者とかいう奴輩(やつばら)にうんと見せつけてやり
たいものさ。
國王聽了之后,歹毒之心油然而起:又在自以為是的吹噓了,反正你也一定不打算再
回來的。我就將計就計,假裝被你欺騙,這樣也滿有趣的。3天之后能夠處死那名替罪羊
倒也是件暢快的事。看來,人類還真是不值得相信啊,那好吧,既然如此我就裝作傷心地
將那名替罪羊處以極刑。也正好想給那些所謂正直的家伙們好好的看看。
「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日沒までに帰って來い。
おくれたら、その身代りを、きっと殺すぞ。ちょっとおくれて來るがいい。おまえの罪
は、永遠にゆるしてやろうぞ。」
「なに、何をおっしゃる。」
「はは。いのちが大事だったら、おくれて來い。おまえの心は、わかっているぞ。」
メロスは口惜しく、地団駄(じだんだ)踏んだ。ものも言いたくなくなった。
“你的請愿,本王了解了,那就叫他來代替你吧。你只要在第3天的日落之前趕回。
如果晚了,那個替代者是必死無疑。當然稍微晚點也是可以的,不過到時你可就要永遠的
背負著罪名了喲。”
“你,你說什么?”
“哈哈,這是性命攸關的事啊,來晚了可就表明你的用心了哦。”
梅洛斯捶胸頓足深深悔恨,就連話也不想說了。
竹馬の友、セリヌンティウスは、深夜、王城に召された。暴君ディオニスの面前で、
佳(よ)き友と佳き友は、二年ぶりで相逢うた。メロスは、友に一切の事情を語った。
セリヌンティウスは無言で首肯(うなず)き、メロスをひしと抱きしめた。友と友の間
は、それでよかった。セリヌンティウスは、縄打たれた。メロスは、すぐに出発した。
初夏、満天の星である。
塞里努迪斯在深夜被召令到皇城。在暴君迪奧尼斯的面前,兩個好友經過了兩年又再
次重逢了。梅洛斯將一切都告知后,セリヌンティウス默默地點頭表示首肯,梅洛斯深深
地擁抱了他。摯友之間只需如此。塞里努迪斯被捆綁住之后,梅洛斯馬不停蹄的就出發了。
在初夏的夜空,閃爍著點點繁星。
メロスはその夜、一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、村へ到著したのは、翌(あ
く)る日の午前、陽は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事をはじめていた。メロ
スの十六の妹も、きょうは兄の代りに羊群の番をしていた。よろめいて歩いて來る兄の、
疲労困憊(こんぱい)の姿を見つけて驚いた。そうして、うるさく兄に質問を浴びせた。
「なんでも無い。」メロスは無理に笑おうと努めた。「市に用事を殘して來た。また
すぐ市に行かなければならぬ。あす、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがよかろう。」
妹は頬をあからめた。
「うれしいか。綺麗(きれい)な衣裳も買って來た。さあ、これから行って、村の
人たちに知らせて來い。結婚式は、あすだと。」
那個夜晚,梅洛斯一會都沒合過眼,就急匆匆的趕了十里路,到了村里已經是第二天
的上午了。艷陽高照,村民們也已經開始了田里的工作。梅洛斯那十六歲的妹妹今天在代
替哥哥放羊。當她看到疲憊不堪的哥哥正步履蹣跚的走來時,著實地吃了一驚。于是喋喋
不休地盤問哥哥到底怎么了。
“沒什么啦”梅洛斯勉強作笑的答道“城市里還有點事情,不得不又要早些趕去。明
天就舉行婚禮吧。越早越好。”
妹妹的臉頰被說得紅紅的。
“開心吧。我給你買了漂亮的衣服。好,我這就去告訴大家,婚禮就在明天。”
メロスは、また、よろよろと歩き出し、家へ帰って神々の祭壇を飾り、祝宴の席を
調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。
梅洛斯一會又出門,一會又回來裝飾祭壇,準備酒席。不久就倒在床上呼呼大睡起來
了。
眼が覚めたのは夜だった。メロスは起きてすぐ、花婿の家を訪れた。そうして、少
し事情があるから、結婚式を明日にしてくれ、と頼んだ。婿の牧人は驚き、それはいけ
ない、こちらには未だ何の仕度も出來ていない、葡萄(ぶどう)の季節まで待ってくれ、
と答えた。メロスは、待つことは出來ぬ、どうか明日にしてくれ給え、と更に押してた
のんだ。婿の牧人も頑強であった。なかなか承諾してくれない。
一覺醒來已經是夜晚了,梅洛斯即刻就去拜訪新郎,請求道:“因為我還有少許事情
纏身,所以請把婚禮放在明天吧。”新郎聽后略感意外地回答“這可不行啊,我們還沒有
任何準備呢,就請等到葡萄成熟之際吧。”“我不能等了,請無論如何定在明天”梅洛斯
又進一步地強求。新郎頑強得很,就是不肯答應。
夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにか婿をなだめ、すかして、説き伏せた。
結婚式は、真晝に行われた。新郎新婦の、神々への宣誓が済んだころ、黒雲が空を覆い、
ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。祝宴に列席してい
た村人たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、狹い
家の中で、むんむん蒸し暑いのも怺(こら)え、陽気に歌をうたい、手を拍(う)った。
メロスも、満面に喜色を湛(たた)え、しばらくは、王とのあの約束をさえ忘れていた。
爭論一直持續到了黎明,終于梅洛斯連哄帶騙的將新郎說服。婚禮就在晌午舉行。新
郎新娘剛完成對神靈宣誓的之時,天空即烏云蓋頂,滴滴答答地下起了雨,不久就變成了
傾盆大雨。來祝賀的各位鄉親們總感覺有些不祥之意。但即便如此,各位依然振作心情,
在狹窄的屋子里,忍受著悶熱,朝氣蓬勃的唱歌,拍手。梅洛斯洋溢著滿臉的笑容。許久,
甚至連與國王的約定都要忘了。
祝宴は、夜に入っていよいよ亂れ華やかになり、人々は、外の豪雨を全く気にしな
くなった。メロスは、一生このままここにいたい、と思った。この佳い人たちと生涯暮
して行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。ままならぬ
事である。メロスは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。
宴席進入了晚上愈發地喧鬧,大家已將外面的滂沱大雨完全拋至腦后。梅洛斯真想永
遠住在這里和大家一起生活。可現在身體也已經不屬于自己。無法再隨心所欲。梅洛斯終
于鞭策了自己,決意出發。
あすの日沒までには、まだ十分の時が在る。ちょっと一眠りして、それからすぐに
出発しよう、と考えた。その頃には、雨も小降りになっていよう。少しでも永くこの家
に愚図愚図とどまっていたかった。メロスほどの男にも、やはり未練の情というものは
在る。
到明天日落之前還有足夠的時間。梅洛斯想小睡一會之后隨即出發。這時雨也變小了,
真想在這里多呆一會。象梅洛斯這等男子也無不留有眷戀之情啊。
今宵呆然、歓喜に酔っているらしい花嫁に近寄り、
「おめでとう。私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい。眼が
覚めたら、すぐに市に出かける。大切な用事があるのだ。私がいなくても、もうおまえ
には優しい亭主があるのだから、決して寂しい事は無い。おまえの兄の、一ばんきらい
なものは、人を疑う事と、それから、噓をつく事だ。おまえも、それは、知っているね。
亭主との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。おまえに言いたいのは、それだけだ。
おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。」
梅洛斯朝著似乎還沉浸在今夜的快樂中,微微有些發愣的妹妹走去。
“恭喜你了,不過真的很抱歉,我有些累了,想去睡會,一覺醒來就要趕去市里處理
些重要的事情。現在你已經有了一個溫柔體貼的丈夫,所以即使我不在,你也決不會感到
寂寞了。你哥哥最討厭的東西就是懷疑和撒謊。這點你也是知道的。所以你和你丈夫之間
可不要有什么秘密啊。我想對你說的,也就是這些了。你的哥哥可是很了不起的喲,所以
你也要持有這份榮耀。”
花嫁は、夢見心地で首肯(うなず)いた。メロスは、それから花婿の肩をたたいて、
「仕度の無いのはお互さまさ。私の家にも、寶といっては、妹と羊だけだ。他には、
何も無い。全部あげよう。もう一つ、メロスの弟になったことを誇ってくれ。」
花婿は揉(も)み手して、てれていた。メロスは笑って村人たちにも會釈(えしゃ
く)して、宴席から立ち去り、羊小屋にもぐり込んで、死んだように深く眠った。
新娘精神恍惚地點點頭。梅洛斯隨后拍著新郎的肩膀,
“我們互相都沒有準備什么東西,我的寶物只有一個妹妹和一群羊,其他什么也沒,
全部都給你了。有一點你要記住,你現在已經是我梅洛斯的弟弟了,你要以此為榮。”
新郎搓著手有點害羞。梅洛斯笑著與村人們點頭回憶,便離開宴席而去,一頭鉆進羊
窩里,死睡過去。
眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。メロスは跳ね起き、南無三、寢過したか、
いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。
きょうは是非とも、あの王に、人の信実の存するところを見せてやろう。そうして笑っ
て磔の臺に上ってやる。メロスは、悠々と身仕度をはじめた。雨も、いくぶん小降りに
なっている様子である。身仕度は出來た。さて、メロスは、ぶるんと両腕を大きく振っ
て、雨中、矢の如く走り出た。
睜開眼睛已是翌日的黎明時分。梅洛斯猛地跳起身來。糟糕,睡過頭了嗎?不,還不
要緊,現在立馬就出發的話,足以趕得上約定的時限。今天一定要讓那個國王見識到人類
的誠實。然后笑著走上死刑臺。梅洛斯悠閑地打扮了起來。雨也下得小了。梅洛斯打扮完
了之后,大副地揮了揮手臂,在雨中如離弦之箭般的沖了出去。
私は、今宵、殺される。殺される為に走るのだ。身代りの友を救う為に走るのだ。
王の奸佞(かんねい)邪智を打ち破る為に走るのだ。走らなければならぬ。そうして、
私は殺される。若い時から名譽を守れ。さらば、ふるさと。若いメロスは、つらかった。
幾度か、立ちどまりそうになった。えい、えいと大聲挙げて自身を叱りながら走った。
村を出て、野を橫切り、森をくぐり抜け、隣村に著いた頃には、雨も止(や)み、日は
高く昇って、そろそろ暑くなって來た。メロスは額(ひたい)の汗をこぶしで払い、こ
こまで來れば大丈夫、もはや故郷への未練は無い。妹たちは、きっと佳い夫婦になるだ
ろう。私には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。まっすぐに王城に行き著けば、それ
でよいのだ。そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気(のんき)
さを取り返し、好きな小歌をいい聲で歌い出した。
我今晚就會被殺死。我為了去赴死而要快跑。為了救出我的朋友而要快跑。為了打破
國王的奸佞邪智而快跑。必須要快跑。我將被殺死。這是我從以前就必須要守護住的名譽。
永別了!我的故鄉。年輕的梅洛斯非常地痛苦。不知有多少次想要止步。但總是一邊唉、
唉地大聲斥責著自己一邊向前跑去。走出村子,橫越原野,穿過森林,到達鄰村的時候,
雨已經停了,太陽高掛,漸漸熱起來了。梅洛斯揮了揮額頭上的汗,到了這里的話就不要
緊了。事到如今對故鄉已不在有任何留戀。妹妹他們一定會好好生活吧。現在我應該也無
需再有任何牽掛了。只要徑直朝向皇城而去就可以了。梅洛斯天生從容的性格,使他感到
也無需這么著急,唱著喜歡的短歌,悠閑地走著。
ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧
(わ)いた災難、メロスの足は、はたと、とまった。見よ、前方の川を。きのうの豪雨
で山の水源地は氾濫(はんらん)し、濁流滔々(とうとう)と下流に集り、猛勢一挙に
橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵(こっぱみじん)に橋桁(はし
げた)を跳ね飛ばしていた。彼は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、
聲を限りに呼びたててみたが、繋舟(けいしゅう)は殘らず浪に浚(さら)われて影な
く、渡守りの姿も見えない。流れはいよいよ、ふくれ上り、海のようになっている。メ
ロスは川岸にうずくまり、男泣きに泣きながらゼウスに手を挙げて哀願した。「ああ、鎮
(しず)めたまえ、荒れ狂う流れを! 時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真晝時
です。あれが沈んでしまわぬうちに、王城に行き著くことが出來なかったら、あの佳い
友達が、私のために死ぬのです。」
梅洛斯悠閑自得的行走了兩三里路,差不多快到達半程的時候,梅洛斯頓時停住了腳
步,災難從天而降。看!前方的大河,由于昨天的暴雨,山上的水源地泛濫了,濁流滔滔
地涌向下流河域,其兇猛之勢一舉將過河的橋也破壞了,嘩嘩漲起來的激流,把橋身沖了
個稀巴爛。梅洛斯呆若木雞地站著,時而向四處眺望,又聲嘶力竭地呼喊著。可河面上的
小船像是被巨浪不留痕跡般疏浚地無影無蹤,根本就看不見渡船人的身影。河流愈發地猛
漲,已似大海一般。梅洛斯蹲在岸邊。一邊號啕大哭著舉起手向宙斯神哀求道“請幫我平
息這狂暴的激流吧。時間正在分分秒秒地過去,現在也已經是晌午,在太陽沒有落下之時,
我若無法趕到皇城,我的好友就會為我而死啊。”
濁流は、メロスの叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。浪は浪を呑み、
捲き、煽(あお)り立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。今はメロスも覚悟した。
泳ぎ切るより他に無い。ああ、神々も照覧あれ! 濁流にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、
いまこそ発揮して見せる。メロスは、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにの
た打ち荒れ狂う浪を相手に、必死の闘爭を開始した。満身の力を腕にこめて、押し寄せ
渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと掻(か)きわけ掻きわけ、めくらめっぽう獅
子奮迅の人の子の姿には、神も哀れと思ったか、ついに憐愍(れんびん)を垂れてくれ
た。押し流されつつも、見事、対岸の樹木の幹に、すがりつく事が出來たのである。あ
りがたい。メロスは馬のように大きな胴震いを一つして、すぐにまた先きを急いだ。一
刻といえども、むだには出來ない。陽は既に西に傾きかけている。ぜいぜい荒い呼吸を
しながら峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、突然、目の前に一隊の山賊が躍り
出た。
濁流像是在嘲笑梅洛斯般的越發的狂舞。巨浪吞噬著巨浪,時而煽動起并卷滾著。時
間在一刻一刻的過去。此時的梅洛斯也覺悟到除了游過去,別無他法。啊!請諸神明鑒,
我現在正要發揮出這不輸濁流的愛與誠實的偉大力量。撲通一聲!梅洛斯躍身跳入了滾滾
激流之中,與似如百條大蛇般的巨浪展開了殊死搏斗。他將全身的力氣都注入在雙臂上,
拼命地撥開拖有旋渦的河水。可能是連神靈都對這樣雜亂無章而擁有迅猛之勢的身姿產生
了一絲傷感。終于垂下了憐憫之情。梅洛斯被水流沖著順利地靠住了對岸的一根樹干。真
是謝天謝地啊。梅洛斯如馬一般的打了一個劇烈的寒戰之后,又迅速的向前方行進。現在
即使是一會兒都不能再浪費了。太陽已經向西方傾斜了。他氣喘吁吁的爬上了山口,剛松
了一口氣,突然眼前跳出了一群山賊。
「待て。」
「何をするのだ。私は陽の沈まぬうちに王城へ行かなければならぬ。放せ。」
「どっこい放さぬ。持ちもの全部を置いて行け。」
「私にはいのちの他には何も無い。その、たった一つの命も、これから王にくれて
やるのだ。」
「その、いのちが欲しいのだ。」
「さては、王の命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだな。」
山賊たちは、ものも言わず一斉に棍棒(こんぼう)を振り挙げた。メロスはひょい
と、からだを折り曲げ、飛鳥の如く身近かの一人に襲いかかり、その棍棒を奪い取って、
「気の毒だが正義のためだ!」と猛然一撃、たちまち、三人を毆り倒し、殘る者の
ひるむ隙(すき)に、さっさと走って峠を下った。
“站住!”
“你們要做什么?我一定要在太陽落下之前趕到皇城。放開我。”
“那個不行,快把你身上的東西都交出來。”
“我身上除了一條命什么都沒有了。而那僅有的一條命這也是去獻給國王的。”
“我就要你的命。”
“原來是國王命令你們在這里埋伏我的呀。”
山賊們一聲不發就一齊揮舞起棍棒。梅洛斯輕巧地彎曲著身體,象飛鳥似地撲向了身
邊的一人,奪取了他的棍棒,
“為了正義,對不住了!”剛說起,便猛然一擊,一會工夫就將三人打倒在地,趁著
其他人正在惶恐之際,快跑著下了山。
一気に峠を駈け降りたが、流石(さすが)に疲労し、折から午後の灼熱(しゃくね
つ)の太陽がまともに、かっと照って來て、メロスは幾度となく眩暈(めまい)を感じ、
これではならぬ、と気を取り直しては、よろよろ二、三歩あるいて、ついに、がくりと
膝を折った。立ち上る事が出來ぬのだ。天を仰いで、くやし泣きに泣き出した。ああ、
あ、濁流を泳ぎ切り、山賊を三人も撃ち倒し韋駄天(いだてん)、ここまで突破して來た
メロスよ。真の勇者、メロスよ。
一口氣下了山,的確是非常的累,那時正逢午后灼熱的太陽迎面而來,火辣辣地照射
下來,梅洛斯幾度感到頭暈目眩,這可不行啊,梅洛斯重整旗鼓,又踉踉蹌蹌地跑了兩三
步,終于,一屁股坐在了地上,無法站立起來。他仰著天,悔恨萬分地哭泣起來。啊,穿
越激流,打倒3個山賊快速逃跑,一路突破抵達此地的是我梅洛斯,我梅洛斯是真正的勇
者。
今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情無い。愛する友は、おまえを信じたば
かりに、やがて殺されなければならぬ。おまえは、稀代(きたい)の不信の人間、まさ
しく王の思う壺(つぼ)だぞ、と自分を叱ってみるのだが、全身萎(な)えて、もはや
芋蟲(いもむし)ほどにも前進かなわぬ。路傍の草原にごろりと寢ころがった。身體疲
労すれば、精神も共にやられる。もう、どうでもいいという、勇者に不似合いな不貞腐
(ふてくさ)れた根性が、心の隅に巣喰った。
可現在到了這里竟然累得無法動彈,真是可悲啊。我那可愛的朋友,只因為相信于你
這家伙,不久就將被殺害,你正如國王所料是個絕世大騙子,梅洛斯就這樣一直自責道,
但全身依然無力,象只小蟲一樣地無法前進。他倒在路邊的草地上滾躺起來。無論如何都
夠了,這種與勇者不相匹配的慪氣的性格,正盤踞在梅洛斯心靈的角落處。
私は、これほど努力したのだ。約束を破る心は、みじんも無かった。神も照覧、私
は精一ぱいに努めて來たのだ。動けなくなるまで走って來たのだ。私は不信の徒では無
い。ああ、できる事なら私の胸を截(た)ち割って、真紅の心臓をお目に掛けたい。愛
と信実の血液だけで動いているこの心臓を見せてやりたい。けれども私は、この大事な
時に、精も根も盡きたのだ。私は、よくよく不幸な男だ。私は、きっと笑われる。私の
一家も笑われる。私は友を欺(あざむ)いた。中途で倒れるのは、はじめから何もしな
いのと同じ事だ。ああ、もう、どうでもいい。これが、私の定った運命なのかも知れな
い。セリヌンティウスよ、ゆるしてくれ。君は、いつでも私を信じた。
我的努力也只能到此刻為止,我絲毫沒有要打破約定的心意。有神靈明鑒,我可是拼
盡全力來到這里。直到跑不動為止。我也并非是無信之徒。啊!如果允許的話我寧愿割開
胸膛,讓你看看我血紅的心。真想讓你看看這流動著愛與誠實的心。但在這重要時刻,我
卻精疲力盡。我無奈是一個不幸的男人。我一定會被取笑。我的全家都會被取笑。我欺騙
了朋友。中途倒下的話,就等于一開始什么也沒做。啊!夠了,這或許就是我的命運吧。
塞里努迪斯啊,原諒我吧。你總是信任著我。
私も君を、欺かなかった。私たちは、本當に佳い友と友であったのだ。いちどだっ
て、暗い疑惑の雲を、お互い胸に宿したことは無かった。いまだって、君は私を無心に
待っているだろう。ああ、待っているだろう。ありがとう、セリヌンティウス。よくも
私を信じてくれた。それを思えば、たまらない。友と友の間の信実は、この世で一ばん
誇るべき寶なのだからな。セリヌンティウス、私は走ったのだ。君を欺くつもりは、み
じんも無かった。信じてくれ! 私は急ぎに急いでここまで來たのだ。濁流を突破した。
山賊の囲みからも、するりと抜けて一気に峠を駈け降りて來たのだ。私だから、出來た
のだよ。ああ、この上、私に望み給うな。放って置いてくれ。
我也不會欺騙你。我們是真正的朋友。黑暗的疑慮之云在我們心中一次都沒有停留過。
即使現在,你也在真誠地等待著吧。是在等待著吧。セリヌンティウス感謝你能夠總是給
予我信任。一想到這些就讓我難以忍受。因為朋友間的信任是這個世界最值得夸耀的寶物
呀。塞里努迪斯啊!我是跑過來的。絕對沒有欺騙你的。相信我!我匆匆趕來這里。突破
了激流,也從山賊的圍困中順利逃脫,一口氣飛奔下山來到這里。因為是我,所以才能夠
做到。所以別這樣高高地望著我。放過我吧。
どうでも、いいのだ。私は負けたのだ。だらしが無い。笑ってくれ。王は私に、ち
ょっとおくれて來い、と耳打ちした。おくれたら、身代りを殺して、私を助けてくれる
と約束した。私は王の卑劣を憎んだ。けれども、今になってみると、私は王の言うまま
になっている。私は、おくれて行くだろう。王は、ひとり合點して私を笑い、そうして
事も無く私を放免するだろう。そうなったら、私は、死ぬよりつらい。私は、永遠に裏
切者だ。地上で最も、不名譽の人種だ。セリヌンティウスよ、私も死ぬぞ。君と一緒に
死なせてくれ。
不管怎么說是我輸了。是我太過于散漫。盡管笑吧。國王曾悄悄對我說:來得遲一點。
并給我約定,只要來得晚,他就殺死那個替身,來救得我的生命。我憎恨國王的卑劣。然
而現在到了這個地步,我真的就如同國王所說的那樣了。我會遲到。然后國王估計也就點
頭笑笑,將我無罪釋放吧。要是那樣的,我真的比死還痛苦。我將永遠的成為一名背叛者。
是世界上最沒有信譽的人類。セリヌンティウス啊,那樣的話我也去死,讓我和你一起死
吧。
君だけは私を信じてくれるにちがい無い。いや、それも私の、ひとりよがりか? あ
あ、もういっそ、悪徳者として生き伸びてやろうか。村には私の家が在る。羊も居る。
妹夫婦は、まさか私を村から追い出すような事はしないだろう。正義だの、信実だの、
愛だの、考えてみれば、くだらない。人を殺して自分が生きる。それが人間世界の定法
ではなかったか。ああ、何もかも、ばかばかしい。私は、醜い裏切り者だ。どうとも、
勝手にするがよい。やんぬる哉(かな)。――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでし
まった。
只有你才會相信我,一定是這樣的。哦不,我又在自以為是了。啊……,我就索性作為
一名惡人茍活于世吧。村里還有我的家,有我的羊,妹妹他們夫妻倆總不能把我趕出村去
吧。正義、誠信、愛,這些東西想想真是無聊。犧牲他人而救活自己,這不正是人世間的
法則嗎?啊……,這一切真是夠愚蠢的。我是丑陋的背叛者。不管這么多了,隨便了吧。我
不。梅洛斯這么想著,便攤開雙手雙腳,迷迷糊糊地打起盹兒來。
ふと耳に、潺々(せんせん)、水の流れる音が聞えた。そっと頭をもたげ、息を呑ん
で耳をすました。すぐ足もとで、水が流れているらしい。よろよろ起き上って、見ると、
巖の裂目から滾々(こんこん)と、何か小さく囁(ささや)きながら清水が湧き出てい
るのである。その泉に吸い込まれるようにメロスは身をかがめた。水を両手で掬(すく)
って、一くち飲んだ。ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。歩ける。
行こう。肉體の疲労恢復(かいふく)と共に、わずかながら希望が生れた。義務遂行の
希望である。わが身を殺して、名譽を守る希望である。
忽然聞聽到潺潺流水聲,梅洛斯稍稍抬起頭,倒吸了一口冷氣,聆聽著身邊的情況。
一會好象覺得腳邊有水流過。他搖搖晃晃地站起身來一看,原來是從巖石的裂縫里,像有
什么在竊竊私語般的涌出滾滾清水。梅洛斯像被這泉水淹沒似的彎著腰。用雙手撈起水喝
了一口。隨后長吐一口氣,仿佛是從夢中醒來。可以走了,去吧。伴隨著體力的恢復,又
產生了微小的希望。這是去完成義務的希望。是去犧牲自己,而守護名譽的希望。
斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いている。日沒まで
には、まだ間がある。私を、待っている人があるのだ。少しも疑わず、靜かに期待して
くれている人があるのだ。私は、信じられている。私の命なぞは、問題ではない。死ん
でお詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。私は、信頼に報いなければならぬ。い
まはただその一事だ。走れ! メロス。
夕陽將赤紅的光芒投射在樹葉上,樹葉像是在燃燒似的發出耀眼的光芒。離日落還有
時間。有人還在等著我。這是毋庸置疑的。有人還在默默地期待著我。我是被信任著的。
我的生命根本就不算什么。以死來謝罪,這根本就行不通。我必須要回報他的信任。現在
能做的只有一件事。快跑!梅洛斯。
私は信頼されている。私は信頼されている。先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢
だ。悪い夢だ。忘れてしまえ。五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るも
のだ。メロス、おまえの恥ではない。やはり、おまえは真の勇者だ。再び立って走れる
ようになったではないか。ありがたい! 私は、正義の士として死ぬ事が出來るぞ。あ
あ、陽が沈む。ずんずん沈む。待ってくれ、ゼウスよ。私は生れた時から正直な男であ
った。正直な男のままにして死なせて下さい。
我是被信賴的。我是被信賴的。方才有個惡魔在我耳邊嘀咕,那絕對是個夢。是個噩
夢。忘記他吧。一定是我過于疲勞,才會夢到的。梅洛斯!那不是你的恥辱。你仍然是一
名勇者。這不又能繼續跑起來了嘛?真是值得驕傲呀!我現在就要作為一名正義之士來走
完我的最后一步。啊!太陽在下落,在漸漸地下落呀。請等等啊!宙斯之神!我自從出身
就是一個正直的人,就請讓我作為一個正直的人死去吧。
路行く人を押しのけ、跳(は)ねとばし、メロスは黒い風のように走った。野原で
酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬を蹴(け)と
ばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。一団の旅人と
颯(さ)っとすれちがった瞬間、不吉な會話を小耳にはさんだ。「いまごろは、あの男も、
磔にかかっているよ。」ああ、その男、その男のために私は、いまこんなに走っているの
だ。その男を死なせてはならない。急げ、メロス。おくれてはならぬ。愛と誠の力を、
いまこそ知らせてやるがよい。風態なんかは、どうでもいい。メロスは、いまは、ほと
んど全裸體であった。呼吸も出來ず、二度、三度、口から血が噴き出た。見える。はる
か向うに小さく、シラクスの市の塔樓が見える。塔樓は、夕陽を受けてきらきら光って
いる。
梅洛斯推開路上的行人,連蹦帶跳、疾步如風地跑著。在廣闊的原野上有一場宴席,
他從宴席的正中間飛奔穿過。使正在享用宴席的人大吃一驚,他踢飛小狗,飛躍小河,梅
洛斯以比太陽下落快十倍的速度奔跑著。突然在與一群人擦身而過的時候,無意中聽到了
一些不吉利的對話。“現在那個男人正在上刑了喲”啊,那個男人,我為了那個男人在如
此的奔跑。決不能讓他死去。快!梅洛斯。不能夠遲到。現在正要讓他們知道愛與真誠的
力量。風度之類的東西,隨他去吧。梅洛斯現在幾乎是全身裸體。呼吸也變得極其困難,
接二連三的從口中吐出血來。看啊!遠處已經能隱隱約約地看到希拉庫斯市的塔樓了。塔
樓在夕陽的照射下閃閃發亮。
「ああ、メロス様。」うめくような聲が、風と共に聞えた。
「誰だ。」メロスは走りながら尋ねた。
「フィロストラトスでございます。貴方のお友達セリヌンティウス様の弟子でござ
います。」その若い石工も、メロスの後について走りながら叫んだ。「もう、駄目でござ
います。むだでございます。走るのは、やめて下さい。もう、あの方(かた)をお助け
になることは出來ません。」
「いや、まだ陽は沈まぬ。」
「ちょうど今、あの方が死刑になるところです。ああ、あなたは遅かった。おうら
み申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」
「いや、まだ陽は沈まぬ。」メロスは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかり
を見つめていた。走るより他は無い。
“啊,梅洛斯大人。”一個急促的聲音,隨著風吹進耳朵。
“是誰?”梅洛斯一邊跑一邊問道。
“我叫菲羅斯特拉脫斯。是你的朋友塞里努迪斯的徒弟。”這個年輕的石匠也跟在梅
洛斯的身后一邊跑一邊喊叫著“已經,已經來不及了。請不要再跑了。已經救不了他了。”
“不,太陽還沒落下。”
“現在正好在執行死刑。你已經遲到了。真的,如果能再早點就好了!”
“不,太陽還沒落下”梅洛斯滿懷悲痛地望著夕陽。除了快跑別無他法。
「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。あの
方は、あなたを信じて居りました。刑場に引き出されても、平気でいました。王様が、
さんざんあの方をからかっても、メロスは來ます、とだけ答え、強い信念を持ちつづけ
ている様子でございました。」
「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは
問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいも
のの為に走っているのだ。ついて來い! フィロストラトス。」
「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、
間に合わぬものでもない。走るがいい。」
言うにや及ぶ。まだ陽は沈まぬ。最後の死力を盡して、メロスは走った。メロスの
頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられ
て走った。陽は、ゆらゆら地平線に沒し、まさに最後の一片の殘光も、消えようとした
時、メロスは疾風の如く刑場に突入した。間に合った。
“請放棄吧。請不要再跑了。現在你自己的性命才是最重要的呀。他一直是相信你的。
即使被帶到刑場,依然鎮定自如。在國王狠狠地嘲笑他的時候,他也只是在回答著‘梅洛
斯會來的’,井然一副持有堅強信念的樣子。”
“正因如此我才繼續跑。正因為被信任著才要繼續跑呀。是否能趕上,這不是問題。
性命也不是問題。我不由得為了更重要的東西去跑。跟上來!菲羅斯特拉脫斯”
“啊,你瘋了嗎?既然如此,那你就去跑吧。說不定還能趕上呢。去跑吧。”
話以至此,太陽還未落下。梅洛斯用盡最后一絲力氣,拼命地跑。此時他的腦袋已經
一片空白。什么都不考慮了。就好象是被一股不知從哪來的力量拖著在跑。夕陽搖搖晃晃
地沉入了地平線,就在連最后一絲余光都消失的時候,梅洛斯疾風似地沖入了刑場。終于
趕上了!
「待て。その人を殺してはならぬ。メロスが帰って來た。約束のとおり、いま、帰
って來た。」と大聲で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、喉(のど)がつぶ
れて嗄(しわが)れた聲が幽(かす)かに出たばかり、群衆は、ひとりとして彼の到著
に気がつかない。すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたセリヌンティウスは、
徐々に釣り上げられてゆく。メロスはそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を泳いだよ
うに群衆を掻きわけ、掻きわけ、
「私だ、刑吏! 殺されるのは、私だ。メロスだ。彼を人質にした私は、ここにい
る!」と、かすれた聲で精一ぱいに叫びながら、ついに磔臺に昇り、釣り上げられてゆ
く友の両足に、齧(かじ)りついた。群衆は、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、と口々
にわめいた。セリヌンティウスの縄は、ほどかれたのである。
“等等!別殺那個人。我回來了。按照約定回來了。”梅洛斯正想大聲地對著刑場上
的群眾喊道。可喉嚨已經干枯,只能用嘶啞的聲音微微叫出聲來。可根本就沒人注意到他。
已經綁在高高的柱子上豎立著的塞里努迪斯被緩緩地吊了起來。梅洛斯目擊了這一切,鼓
足了最后的勇氣,就像前面突破激流般的用手撥開了人群。
“是我!士兵,要殺的人是我梅洛斯!讓他成為人質的我在這里呀!”
梅洛斯一邊用嘶啞的聲音拼命地叫喊著,終于抓住了隨著邢臺上升而被吊上去的朋友
的兩只腳。人群一下子沸騰開了。紛紛叫喊著,啊!原諒他吧。綁住塞里努迪斯的繩子被
解開了。
「セリヌンティウス。」メロスは眼に涙を浮べて言った。「私を毆れ。ちから一ぱい
に頬を毆れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若(も)し私を毆ってくれなかっ
たら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。毆れ。」
セリヌンティウスは、すべてを察した様子で首肯(うなず)き、刑場一ぱいに鳴り
響くほど音高くメロスの右頬を毆った。毆ってから優しく微笑(ほほえ)み、
「メロス、私を毆れ。同じくらい音高く私の頬を毆れ。私はこの三日の間、たった
一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を毆ってくれなけ
れば、私は君と抱擁できない。」
メロスは腕に唸(うな)りをつけてセリヌンティウスの頬を毆った。
「ありがとう、友よ。」二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおい
おい聲を放って泣いた。
“塞里努迪斯”梅洛斯含著淚說“請打我吧。用力打我的臉。我在途中做了個噩夢。
如果你不打我,我沒有資格擁抱你。快打!”
塞里努迪斯似乎已經察覺了一切,點點頭,高高呼喊著響徹整個刑場的聲音,一拳打
在了梅洛斯的右臉上。而后又微微笑著說
“梅洛斯。用同樣的力氣也打我的臉。我在這三天里曾經一度懷疑過你。平生第一次
懷疑了你。你不打我的話,我也無法擁抱你。”
梅洛斯揮了揮胳膊,一聲狂吼,打在了塞里努迪斯的臉頰上。
“感謝你!我的朋友”兩人同時說著,緊緊地擁抱在了一起,伴隨著高興的淚水,放
聲痛哭起來。
群衆の中からも、歔欷(きょき)の聲が聞えた。暴君ディオニスは、群衆の背後か
ら二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて靜かに二人に近づき、顔をあからめ
て、こう言った。
「おまえらの望みは葉(かな)ったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実
とは、決して空虛な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。ど
うか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」
どっと群衆の間に、歓聲が起った。
「萬歳、王様萬歳。」
ひとりの少女が、緋(ひ)のマントをメロスに捧げた。メロスは、まごついた。佳
き友は、気をきかせて教えてやった。
「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを著るがいい。この可愛
い娘さんは、メロスの裸體を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」
勇者は、ひどく赤面した。
人群里也聞聽到了哭泣的聲音。暴君迪奧尼斯在人群的背后注視著他們兩人,隨后靜
靜地向他們走去,臉色赤紅地說道
“你們都實現了對方的期望。你們戰勝了我的心。誠實決不是空虛的妄想。怎么樣啊?
能不能也讓我成為你們的伙伴?怎么樣?請聽聽我的愿望吧,我想成為你們的伙伴。”
突然群眾之間歡聲雷動。
“萬歲!國王萬歲!”
其中有一個少女將鮮紅的斗篷獻給了梅洛斯。梅洛斯有點不知所措。朋友啊,你教給
我如何體貼入微喲。
“梅洛斯,你可是一絲不掛哦,還是趁早把那個斗篷穿上吧。這位可愛的姑娘,也是
無法忍受讓大家看到你的裸體呀。”
勇者此時也羞愧地滿面赤紅。
THE END
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